東京向島
古来東都に冠たる桜花の名所にして其の名全国に著はる
桜樹は享保年間吉野より移植し堤上二里に渉る
晩春開花の候に至れば都下数万の士女来集群を為す
近傍名所古蹟頗る多し
明治33年発行『日本名勝百景』より
現代語
古くから東京の最も有名な桜の名所として、その名は全国に知られている。桜の木は享保年間に吉野から移植され、堤上の8kmにわたって植えられている。春の終わりに桜が咲く時期になると、東京中から数万の人々が訪れて賑わう。近くにはたくさんの名所や古跡も多い。
向島の概要
向島は東京都墨田区北部に位置する地名です。中世からは農村地帯として発展してきました。その後、隅田川の堤防である墨堤一帯は、人々の遊び場として親しまれるようになりました。「向島」という名前は、この地域全体を指す総称として使われ、近世以降、浅草側から見た際の眺めがまるで島のように見えたことに由来します。1932年(昭和7年)に隅田、吾嬬、寺島の三町が合併して「向島区」となりました。しかし、1947年に本所区と合併し「墨田区」となった後も、この地の名は町名として残されています。関東大震災以降は、この地域は工業地帯として変貌を遂げました。