「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」の波の高さってどのくらいなの?またその意味は?
日本海海戦における秋山真之の名文「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」。
では、この「浪高シ」とは実際にはどのくらいの高さの波なのでしょうか。
1. 「浪高し」の波の高さはどのくらい?
やがて飯田少佐が真之のところへやってきて、草稿をさし出した。
小説『坂の上の雲』(抜錨)より
「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、連合艦隊ハ直ニ出動、之ヲ撃滅セントス」
とあった。
「よろしい」
真之は、うなずいた。飯田はすぐ動いた。加藤参謀長のもとにもってゆくべく駆け出そうとした。そのとき真之は、「待て」ととめた。
すでに鉛筆をにぎっていた。その草稿をとりもどすと、右の文章につづいて、
「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」
と入れた。
この「浪高シ」を、帝国海軍が定めるところの「波浪等級」で確認しますと、
等級 | 状態(波の高さ) |
---|---|
1等級 | 穏やか(0m) |
2等級 | 滑らか(0.3m~0.6m) |
3等級 | 少々浪あり(0.6m~1.0m) |
4等級 | かなり浪あり(1.0m~1.5m) |
5等級 | 浪稍荒らし(1.5m~2.5m) |
6等級 | 浪荒らし(2.5m~4.0m) |
7等級 | 浪高し(4.0m~7.0m) |
8等級 | 浪甚だ高し(7.0m~13.0m) |
9等級 | 怒涛(13.0m以上) |
「浪高シ」は、7等級になり、4.0~7.0mの波の高さになります。
これは気象台が発表するところの「波浪警報」またはその手前に当たります。船は出港停止や航路変更の影響を受ける高さということになります。
とまあ、こんな危険な荒波のなか、東郷平八郎は「敵前大回頭」をやってのけたのです。
2. 「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」が名分と評される理由
「本日天気晴朗なれども波高し」の電報受けた大本営は、危惧していた不安が一掃され勝利を確信したといいます。
その理由は、
天気晴朗
帝国海軍の不安の一つは、海上濃霧の心配でした。霧のために敵艦隊を逸するようなことがあってはならないという危惧の念が、「天気晴朗」の四字によって一掃され、大本営を安堵させるのに十分な力ある語となりました。
浪高し
さらに「浪高し」の三字に至っては、当時この電報を受取った大本営に、「勝算我に在り」と確信させたといいます。
それは、帝国海軍はこの日に備え、数ヶ月間連日連夜射撃訓練した技量に対し、半年もの間、難航海を続けたことで、十分その技量を練ることができなかったバルチック艦隊との射撃術の優劣は、波浪のためさらに大きくなったこと。
もう一つは、帝国海軍の軍艦は近海の高浪に堪えるために、舷を比較的高くしているのに対し、バルチック艦隊は舷が低いこと。この舷の高低は戦闘の際に波浪の具合によって優劣を生じさせます。もし波が穏やかであれば舷の高い帝国艦隊は、標的面が大きいため敵弾の命中率を増大させてしまい不利になります。
しかし、波浪が高い場合は、舷の低いバルチック艦隊は甲板を海水で洗われてしまい戦闘行為を阻害されるため、帝国海軍には断然有利となったのです。
3. まとめ
「本日天気晴朗なれども波高し」の一文により、戦術上の優位を的確に大本営に伝えた秋山真之の才能は高く評価されます。そして、秋山真之の戦功を知らなくても、美辞麗句の作者としてその名が国中に広まります。