秋山真之の教え:結婚生活の心得
結婚は人生の重要な節目であり、夫婦が互いに調和し、理解し合うことは必要不可欠です。本文は、秋山真之が親族の令嬢の婚礼に際して贈った、結婚に関する古の智恵を集めた教えです。
これらの教えは、時代背景を反映したものであり、現代の視点から見ると一部の考え方は現代の価値観とは異なることもありますので、あらかじめご了承ください。
親族令嬢の婚儀に際し書き与へたる訓諭
(原文)
覚書
芽出度天縁相整ひ其元にも愈よ○○家へ縁付かれ候に就き此後の心得一通り教へ諭しおき候ものなり
一、凡そ夫婦たるものの第一の心掛は夫婦のゑにしが決して假初ならぬ事を能くわきまへ居ることにて一度契りを結びたる以上は神様の命じたまへる天縁と心得如何なる事ありども離るべきものならざるを覚悟して終生偕老を全ふすべきものぞかし此の天縁の尊きを辨へずして我儘勝手に夫を定めたるものと思ひあやまる時は長き年月の間には色々の不足など心に起りて一生の不幸此上無きものなり
一、又夫婦は始終同心一体といふ心得が至極肝要なり素より別々の家に生れ育ちたる男女が初めより同心一体となるべきいはれなきようなれども妻たるもの常に夫の心を我心として付き順ふ時は自然に和合して一心同体の如くなるものぞかし凡そ夫婦の中に包み隠くし又は疑ひ怨むなどのこと毛頭あるまじきものなるにまま斯様のことあるは夫婦別々の考へより生ずるものにて一心同体なればかくすこともうたがふ事も出来べきにあらずされば其元縁付の後は常に夫をかたく信じて假初にも夫を疑ひ怨むなどの事なきは勿論些細の事にても夫に包み隠しあらべからず但し国家社会の要務に従事する夫は妻に話さぬことあるものにて公の大事を妻に洩らすような夫は決して善き夫にあらずと知るべし
一、夫婦の道一心同体にあれどもこれと共に心得べきは夫婦の本分に差別あることにて古の聖人も夫婦別ありどおしへたまへり夫は一家の主人にして妻はこれに従ふべきもの決して男女同権にはあらず又夫は常に外に出でも国家社会の公務に従事し其所得にて一家を養ひ妻は内を守りて家を修め子供を育てるが各々の天職にて此の家を修め児を育てる仕事だけに一生勉強しても足りぬ程六かしきものなれば其以外に迄手を出すなどは誠に心得違ひの至りなり我が夫に家内の心配を掛けず我児を立派にそだて上ぐればこれこそ婦人の勲一等と申すものなり
一、夫婦の愛情はいつまでも無くてかなはぬものなれども如何程むつまじきとて妻たるものが夫に対して馴れ馴れしくするはよろしからず必ず常に敬意を以て恭しくつかふるものなり此心掛けさへあれど夫の愛情は生涯尽るものにはあらず世にはまま馴合ひ夫婦といふものありて夫婦が友達の如くなれしたしむかとおもへば一年もたたぬ内に愛情つきて果は不縁となること多し慎むべきものぞかし又朝夕夫にまみゆるには必ず髪をくしけずり衣紋をととのへるをわするべからず如何程いそがしき折にてもしだらなき姿にて夫の前に出るは女の辱じなり婦人の鏡はそれが為に持たせあるものにて古より鏡を女の魂と尊ぶいはれもまたここにありと知るべし去れどもたしなみと華美とは似たるようにて大違ひなれば間違へてはなり不申此事呉々も注意さるべし
一、凡そ女子が生家を出でて他家へ縁付けば最早其家の人なりたるものなれば夫の父母兄妹は真実の親同胞と同様に誠を尽くし何事も其家の事のみをおもひて決して生家に心を残すべからず世にはまま新しき我家を忘れ生家の家風などを持込む婦人あれども家々にはそれぞれの家風あるものなれば必ずそれに従ふべきものなり殊に縁付たる後に生家の親兄弟などの富貴栄達を鼻にかけるははしたなき婦人に有勝の事にてよし夫との仲はむつまじくとも弟妹にきらはれ終に不縁の不幸を見ることあり心すべき事なり
一、女子の慎むべき事数多あれども取り分け口の慎みは最も肝要にて口は禍の本と申してそれがため自分の不幸を招くのいか夫に迄迷惑かくるものなり他人の前は勿論夫の前にても人の風評などはよかれあしかれ決してなされまじくそれよりは自分の風評をされぬよう明け暮れ注意さるべし又其元は未だ充分に家政などの経験もなければ何事も目上の人に聞きて我が足らぬ処をおぎなふよう心掛け人中に出過ぎて物知り顔などするはいとも慎むべき事なり
一、家を修むるには萬事に質素倹約が第一にて家計ゆたかになりても身分不相応の事をなすべからず一度奢りに長ずるときは再び元の質素に帰り難きものぞかし又年若き時は早く起き遅く寝て自ら先に立ちて下女同様に働くがよろしく何事も自分でして見ねば後年に至り人を使ふ呼吸は分らぬものなり
右の七ヶ条呉呉も忘れぬ様いたされ結婚の後も毎月一日には必ず此手紙を読まれたくさすれば其元一生の幸福は自然にこれより生ずること疑ひなく候
芽出度かしく
(現代語)
覚書
幸せな縁が整い、これから○○家に嫁ぐことになった際の、今後の心得についてしっかりと教えておきます。
一、夫婦として最も大切なことは、夫婦の絆が決して一時的なものでないことをしっかりと理解していることです。一度結ばれた契りは、神様が定めた運命的な縁と考え、どんなことがあっても離れるべきではないとの覚悟を持ち、一生を共に老いることを目指すべきです。この運命的な縁の尊さを理解せず、勝手な思い込みで配偶者を選んだ場合、長い年月の間に様々な問題が生じ、一生の不幸となることもあります。
一、夫婦は常に心を一つにすることが非常に重要です。最初から違う環境で育った男女がすぐに心を一つにすることは難しいかもしれませんが、妻は常に夫の心を自分の心として受け入れ、従うことで自然と和合し、心を一つにすることができます。夫婦の間に隠し事や疑い、恨みがあってはならないことは明らかですが、これは夫婦が別々の考えを持つから生じるものです。心を一つにすれば、隠し事や疑いを持つことはなくなります。そのため、結婚してからは夫を固く信じ、決して夫を疑ったり恨んだりすることはないようにしましょう。些細なことでも夫に隠してはいけません。ただし、国家や社会の重要な任務に従事する夫は、妻に話せないこともあるので、そのような重要な情報を妻に漏らす夫は良い夫ではありません。
一、夫婦は心を一つにすることが大切ですが、同時に夫婦の役割には違いがあることを理解する必要があります。古代の聖人たちも夫婦の役割は異なると教えています。夫は家族の主であり、妻はそれに従うべきです。これは男女平等ではありません。夫は外で働き、国や社会のために公務に従事し、その収入で家族を養います。一方、妻は家庭を守り、家を整え、子供を育てるのが役割です。家を整え、子供を育てる仕事は、一生勉強しても足りないほど尊いものです。そのため、これ以外のことに手を出すのは誤解です。夫に家庭の心配をかけずに、子供を立派に育てれば、それが女性の最高の功績とされるのです。
一、夫婦の愛情は永遠に続くものではないが、親しい間柄であっても、妻が夫に対してなれなれしくするのは良くない。常に敬意を持って丁寧に接するべきです。この心構えがあれば、夫の愛情は生涯続くでしょう。馴れ合い過ぎる夫婦がおり、友達のような関係を望むが、しばしばそれは愛情が尽きる結果につながる。慎重に行動するべきです。また、朝晩夫に会う時は、髪を整え、服装をきちんとすることを怠ってはならない。忙しい時でも、だらしない格好で夫の前に現れるのは女性としての恥です。女性の鏡は、女性の魂を映すためにあると古来から尊ばれています。しかし、洗練された姿と華美を間違えてはいけません。このことには特に注意が必要です。
一、女性が実家を出て他家に嫁ぐ場合、すでにその家の一員となっているため、夫の両親や兄弟姉妹を本当の家族のように大切にし、何事もその家のことだけを考え、実家に心を残してはいけません。世の中には、新しい家を忘れて実家の風習を持ち込む女性がいますが、それぞれの家には独自の風習があり、それに従うべきです。特に嫁いだ後に実家の家族の成功を自慢するのは不適切です。重要なのは、夫との関係が良好であっても、義理の弟妹に嫌われ、結果的に疎遠になる不幸を避けることです。注意が必要です。
一、女性が注意すべきことは多々ありますが、特に言葉の使い方には最も注意が必要です。言葉は災いの元とされ、それによって自分だけでなく、夫にも迷惑をかけることがあります。他人の前はもちろん、夫の前でも人の評判を話すことは良いことであれ悪いことであれ、決して行ってはいけません。それよりも、自分の評判が悪くならないよう、日々注意すべきです。また、家政などの経験がまだ十分でない場合は、何事も目上の人に聞いて、自分の不足を補うよう努めるべきです。人前で知ったかぶりをするのも極めて避けるべきことです。
一、家庭を管理するには、すべての事において質素で倹約することが最も重要です。家計が裕福になったとしても、自分の身分に不相応なことは避けるべきです。一度贅沢に慣れてしまうと、元の質素な生活に戻るのは難しいです。また、若い時期には早起きして遅くまで働くことが望ましいです。自分で一から全てを行うことで、後年になって他人を指導する能力が身につくのです。
上述した七つの教訓を決して忘れないようにし、結婚後も毎月一日には必ずこの手紙を読むようにしてください。そうすることで、これらの教えを基にして一生の幸福が自然と得られることは間違いないでしょう。
めでたくかしこ。
要約
夫婦の絆とその重要性
- 夫婦の絆は一時的なものではなく、永続的であることの理解が重要。
- 結婚は神様が定めた運命的な縁と考え、どんな状況でも離れない覚悟が必要。
- 一生を共に老いることを目指すべき。
- 運命的な縁を理解せず勝手な思い込みで配偶者を選ぶと、長期間の問題が生じ、不幸につながる可能性がある。
夫婦の心の一体感と信頼
- 心を一つにすることが夫婦にとって非常に重要。
- 異なる環境で育った男女が心を一つにするのは難しいが、妻は夫の心を理解し、従うことで和合を促進。
- 隠し事、疑い、恨みは夫婦関係において避けるべきで、これらは別々の考えから生じる。
- 心が一つになることで、隠し事や疑いはなくなる。
- 結婚後は夫を固く信じ、疑ったり恨んだりしないことが大切。
- 夫に対しては些細なことも隠さないようにする。
- 国家や社会の重要な任務に従事する夫は、妻に話せないことがある場合もあり、その情報を漏らす夫は良い夫とは言えない。
夫婦の役割とその重要性
- 夫婦は心を一つにすることが重要であるが、役割の違いを理解する必要がある。
- 古代の聖人たちも夫婦の役割が異なると教えている。
- 夫は家族の主であり、妻は夫に従うべきとされる。
- 夫の役割は外で働き、国や社会のために公務に従事し、家族を養うこと。
- 妻の役割は家庭を守り、家を整え、子供を育てること。
- 家を整え、子供を育てる仕事は非常に尊い。
- 妻が家庭以外のことに手を出すのは誤解とされる。
- 夫に家庭の心配をかけず、子供を立派に育てることが女性の最高の功績とされる。
夫婦関係における敬意と身だしなみ
- 夫婦の愛情は永遠に続くものではないが、敬意を持つことが重要。
- 妻は夫に対してなれなれしくせず、常に丁寧に接するべき。
- 敬意を持つ心構えがあれば、夫の愛情は生涯続く可能性が高い。
- 馴れ合い過ぎると友達のような関係になり、愛情が尽きることもある。
- 朝晩夫に会う際は、髪を整え、服装に気を使うこと。
- 忙しい時でも、だらしない格好で夫の前に現れることは避けるべき。
- 女性は常に鏡を使って身だしなみを整えることが尊ばれている。
- 洗練された姿と華美を混同しないよう注意が必要。
嫁入りと新しい家族との関係
- 嫁ぐ女性は実家を出て夫の家族の一員となる。
- 夫の両親や兄弟姉妹を本当の家族のように大切にすることが重要。
- 新しい家のことだけを考え、実家に心を残さないこと。
- 実家の風習を新しい家庭に持ち込むのは適切ではない。
- それぞれの家には独自の風習があり、それに従うべき。
- 嫁いだ後に実家の家族の成功を自慢するのは不適切。
- 夫との良好な関係を保ちつつ、義理の弟妹に嫌われることを避ける。
- 義理の家族との関係悪化は不幸を招くため、注意が必要。
女性が心掛けるべき言葉遣いと態度
- 特に言葉の使い方に注意が必要。
- 言葉が災いの元になり、自分だけでなく夫にも迷惑をかける可能性がある。
- 他人の前、特に夫の前で人の評判について話すことは避けるべき。
- 自分の評判を損ねないよう日々注意が必要。
- 家政などの経験が不足している場合は、目上の人に相談して学ぶべき。
- 人前で知ったかぶりをするのは極めて避けるべき。
家庭管理と質素倹約の重要性
- 家庭を管理するには質素で倹約することが最も重要。
- 裕福になっても自分の身分に不相応な贅沢は避けるべき。
- 贅沢に慣れると質素な生活に戻るのが難しくなる。
- 若い時期には早起きして遅くまで働くことが望ましい。
- 自分で全てを行うことで、将来他人を指導する能力が身につく。
まとめ
これらの教えは、過去の時代における夫婦間の調和、信頼、尊敬に関する貴重な洞察を提供しています。明治時代の社会規範や文化的背景を反映しているため、現代の価値観とは異なる内容が含まれており、一部の考え方は現代の視点から見ると適用が難しいものもあります。しかし、結婚生活を円滑に進め、双方にとって満足のいく関係を築くための核心的なメッセージは、現代でも有用な部分を持っています。
秋山真之によって記されたこの指南は、結婚に臨む人々や既に結婚生活を送っている人々に対し、時代を超えた智慧としての知恵を提供しています。夫婦それぞれの役割、相互の尊敬、家庭内の調和に焦点を当てた内容となっていますが、これらの教えは、現代の夫婦関係において相互理解と柔軟な対応がさらに重要であることを認識する上で役立ちます。これらを参考にしながら、現代の生活環境に適合した形で夫婦関係を築き上げるためのヒントとしてご活用いただければと思います。