秋山真之の軍学、海軍兵術4つの構えとは
秋山真之は、米・英駐在の3年間に海軍の戦略・戦術・戦務の三概念を具体化し、帰国後海軍大学校教官となりこれを普及させます。
1. 戦略、戦術、戦務
秋山真之は海軍兵術を「戦略」、「戦術」、「戦務」の三大種目に分け、さらに基本と応用とに区別した。
1-1. 戦略
戦闘時の「戦闘の地、戦闘の兵力を定めるもの」
軍の配備その他の根本問題を取り扱うものであり、敵に備えての布石とする。
▼実践例
- 海戦当初、連合艦隊を三つに分けてそれぞれの任務に当てる
- 旅順口封鎖
- バルチック艦隊迎撃の地点を定める
1-2. 戦術
ずっと局部的で「敵軍との交戦にあたり、いかなる計画によって、いかなる隊形で戦うか」
技術的なものであり、手筋や定石に類するものである。
▼実践例
- バルチック艦隊と接近して、丁字戦法を用いる
- 夜襲を実行するなど正奇、虚実の術を尽くしてこれを撃破
1-3. 戦務
「戦略、戦術を実施するための事務の総称」
情報通信、弾薬、兵器、炭水、兵糧などの補給を包含する。
2. 天、地、人
さらに、「戦略、戦術の要訣は「天」、「地」、「人」の利を得るものにある」とする
2-1. 天
「天」は時である。
如何なる機において敵と合戦するか、如何なる天候のもと如何なる作戦をとるか、これ即ち天。
2-2. 地
「地」は場所である。
我は如何なる地点をとり、如何なる地点を敵に与えてならぬか、これ即ち地。
2-3. 人
「人」は人の和である。
如何なる統帥の下に、如何なる軍を配するか、如何にして主将の命令を徹底せしめるか。
如何にすれば、敵の連携を絶ち得るか、これ即ち人。
3. 正法と奇法
戦闘の攻撃方法は「正法」、「奇法」があるとする
3-1. 正法
いわゆる力比べ
3-2. 奇法
いわゆる奇襲。先頭もしくは後尾にまわって、わが全線の放火を敵の一端に集中するようにもってゆく。 いわゆる「丁字戦法」。それに「乙字戦法」を併用する
- 「丁字戦法」とは、我を正位に保ちながら、敵に正位を失わせる
- 「乙字戦法」とは、敵と正位にて対戦しているときに、他の一隊が奇位に出て、敵翼を横撃
▼歴史的事例
- 源義経の「ひよどり越えのさかおとし」(一の谷合戦)
- 織田信長の桶狭間の戦い
しかし、奇と奇が争ったらどうなるかを考えれば、奇法はいつもとることができない。
▼歴史的事例
- 武田信玄と上杉謙信の「川中島の決戦」
よって、真之は戦とは「およそ戦うものは正をもって合い、奇をもって勝つ」(孫子)とすることが肝要と説く。要は敵が正奇いずれの攻撃法をとってきても、虚実、正奇いずれかの観察、判断し、敵に乗じる隙を与えない。 そして頃合いを図り、敵の虚に生じた弱点を見落とさず攻撃することである。
「奇法」により桶狭間の戦いに勝利した織田信長も、それ以後は「奇法」は一切用いておらず、常に敵の倍の兵力をもってのぞんでいる。真の勝利者とはまず必勝の条件を作り出してから敵と戦うものである。
4. 虚撃
さらに、戦法に虚実の駆け引きがあるように、攻撃にも正法・奇法いずれの実撃と虚撃があるとする。
4-1. 正法の虚撃
正面から堂々と攻撃すると見せかけて、敵を牽制する
4-2. 奇法の虚撃
夜中ときならぬときに空砲を放ち、灯りと点じ奇襲を装う
5. まとめ
虚実のかけひきにおいては、彼我の力量を知り、意図を知り、戦勢と戦機を先見する能力を磨くしかない。 そして、その能力がたけたものこそ、世の歴史家は「名将」と呼び称賛する。