エリート好きの山本権兵衛
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目次
- 1. 広瀬武夫、友人財部彪(たからべたけし)の結婚を反対する 広瀬武夫広瀬武夫と財部彪は海軍兵学校の同期(15期)でもあり、互に認める友人でした。その財部彪が山本権兵衛海相の娘を娶る事になりました。 Advertisements 広瀬はその報に接して驚き、これはいかん、財部のためにはなはだ不利益な結婚だ。これは止めねばならんと山本海相の邸に走ります。なんとか山本海相に面会することができた広瀬は、海相を前にして声大にして曰く、財部はご承知の通り海軍部内の秀才です。前途多望の男です。一身の栄達は固より期して待つべきで、僕等友人の固く信ずる所です。然るに今度お娘子と結婚の約が調ったそうですが、今財部が海軍大臣の娘婿となるにおいては、今後財部が自分一個の力によって、官職は位階の昇進する事があっても、世間ではこれを以て全く海軍大臣のおかげであるとする。海軍大臣の娘婿であるからだとして、非難こそあれど、誰も財部の技量を認める者はいないでしょう。だからこの結婚は財部の為に甚だ不利益で、財部の為に惜しまざるを得ません。この結婚は破談にして戴きたいことを僕は切に希望します。僕は財部の友人として、衷情黙視するに忍びないからお諌めに参りました。と結婚の中止を諫言します。しかし、広瀬武夫の諫言は聞き入られず、財部は山本海相の娘婿となったのでした。2. 秋山真之、縁談を断る
- 3. 余話
1. 広瀬武夫、友人財部彪(たからべたけし)の結婚を反対する
広瀬武夫 広瀬武夫と財部彪は海軍兵学校の同期(15期)でもあり、互に認める友人でした。
その財部彪が山本権兵衛海相の娘を娶る事になりました。
広瀬はその報に接して驚き、
これはいかん、財部のためにはなはだ不利益な結婚だ。これは止めねばならん
と山本海相の邸に走ります。
なんとか山本海相に面会することができた広瀬は、海相を前にして声大にして曰く、
財部はご承知の通り海軍部内の秀才です。前途多望の男です。一身の栄達は固より期して待つべきで、僕等友人の固く信ずる所です。然るに今度お娘子と結婚の約が調ったそうですが、今財部が海軍大臣の娘婿となるにおいては、今後財部が自分一個の力によって、官職は位階の昇進する事があっても、世間ではこれを以て全く海軍大臣のおかげであるとする。海軍大臣の娘婿であるからだとして、非難こそあれど、誰も財部の技量を認める者はいないでしょう。だからこの結婚は財部の為に甚だ不利益で、財部の為に惜しまざるを得ません。この結婚は破談にして戴きたいことを僕は切に希望します。僕は財部の友人として、衷情黙視するに忍びないからお諌めに参りました。
と結婚の中止を諫言します。
しかし、広瀬武夫の諫言は聞き入られず、財部は山本海相の娘婿となったのでした。
2. 秋山真之、縁談を断る
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秋山真之 秋山真之は常日頃より、
大抵の人は、妻子を持つと共に片足を棺おけに衝込みて半死し、進取の気象衰へ退歩を治む。
秋山真之「天剣漫録」より
と、結婚して家庭をもつと、男子の志を弱らせるものだという信念をもっていました。
これは、平素より兄・好古から、
若い者の敵は家庭である。家庭をもてば研究心が衰える。どうしても女房をもたなくてはならぬのなら、できるだけゆっくりもらえ。
と、口癖のように言われていたことに、真之自身も納得していたことに因ります。
ところが、秋山真之が31歳の頃、にわかに縁談の話が持ち上がります。
縁談のお相手は、山本権兵衛海軍大臣の18歳になる二番目の娘でした。先にも述べましたが、山本権兵衛といえば、一番目の娘を財部彪に娶らせ婿養子とします。エリートを好む山本権兵衛ゆえに、15期首席の財部彪同様に17期首席の秋山真之にも白羽の矢を立てるのも当然です。
だが、秋山真之は山本権兵衛の藩閥の権勢をうしろにひかえた面構えが気に入らず、権門の婿でございと、虎の皮をかぶっている狐にだけはなりたくないという理由もあり、この縁談を見事に断りました。
3. 余話
しかし、この縁談はこれで終らず、同郷かつ同期(成績3位)の山路一善に話がおよびます。
山路はこの縁談を受けて山本権兵衛の婿養子となります。
この縁談に対して、秋山真之は、
よりによって同じ郷里の、同じクラスの、ふだんから競争相手きどりで、ワシには反感ばかりもっている男を急に婿にした。なまじっか同藩などというのが、かえっていけない。こともあろうに、よりによってあの男を婿のあとがまに据えたのは、底意が知れない
島田謹二著『アメリカにおける秋山真之』より
と、語っています。
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これはいかん、財部のためにはなはだ不利益な結婚だ。これは止めねばならん
財部はご承知の通り海軍部内の秀才です。前途多望の男です。一身の栄達は固より期して待つべきで、僕等友人の固く信ずる所です。然るに今度お娘子と結婚の約が調ったそうですが、今財部が海軍大臣の娘婿となるにおいては、今後財部が自分一個の力によって、官職は位階の昇進する事があっても、世間ではこれを以て全く海軍大臣のおかげであるとする。海軍大臣の娘婿であるからだとして、非難こそあれど、誰も財部の技量を認める者はいないでしょう。だからこの結婚は財部の為に甚だ不利益で、財部の為に惜しまざるを得ません。この結婚は破談にして戴きたいことを僕は切に希望します。僕は財部の友人として、衷情黙視するに忍びないからお諌めに参りました。
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大抵の人は、妻子を持つと共に片足を棺おけに衝込みて半死し、進取の気象衰へ退歩を治む。
秋山真之「天剣漫録」より若い者の敵は家庭である。家庭をもてば研究心が衰える。どうしても女房をもたなくてはならぬのなら、できるだけゆっくりもらえ。
よりによって同じ郷里の、同じクラスの、ふだんから競争相手きどりで、ワシには反感ばかりもっている男を急に婿にした。なまじっか同藩などというのが、かえっていけない。こともあろうに、よりによってあの男を婿のあとがまに据えたのは、底意が知れない
島田謹二著『アメリカにおける秋山真之』より